トップを目指す意欲と相応の実績を有し、競技力向上のために新たな技術や手法を導入する活動として、福岡県スポーツ推進基金「令和7年度トップアスリート育成助成金(イノベーション導入助成)」の対象に決定しました。

申請者:西日本工業大学バドミントン部
競 技:バドミントン
年 代:大学生

助成対象者

西日本工業大学バドミントン部



助成対象活動

【活動テーマ】
性質の異なる競技における周辺視野の活用と視野特性の比較分析‐ICTを活用した視覚評価とクロス・トレーニングの応用可能性‐

【概要】
バドミントンのような高速スポーツでは、選手はボールや相手の動きを視覚的に即座に判断する必要があり、周辺視が極めて重要な役割を果たすことが申請者の過去の研究結果からわかっている。一方、ゴルフのように静止したボールを打つ競技においても、集中力やボール以外の周囲情報の処理(例:風、傾斜、芝の状態、ラインの読み取り)が必要とされる場面があると考えられる。これら2種目の視野活用の違いを比較することで、スポーツ視覚認知の理解が深まるだけでなく、競技横断的なトレーニング手法の提案が可能となる。また、バドミントンで用いる周辺視がゴルフにおいても有用であれば、バドミントンにおけるトレーニングがゴルフにも有用であることが考えられる。これはゴルフにおけるトレーニングがバドミントンにも有用であるともいえる。逆に、ゴルフにおいて周辺視よりも中心視が優位であることが示された場合は、ゴルフにおける中心視を鍛えるトレーニングにより、バドミントンにおける中心視を用いる場面(レシーブ時のシャトルを捉える瞬間やオーバーヘッドストローク時のシャトルを打つ瞬間)での精度向上が期待できる。さらに、ゴルフではアドレスに入るまでに周囲の環境を確認し(周辺視を活用)、注視点を固定(ボールを注視しているかは検討課題)、スイング動作という流れが自然であるが、このリズムはバドミントンにおいてもサービスを打つまでや滞空時間の長いショットに対するストロークまでが、同様のリズムが発生しており、これら双方のルーティンワークにおける視野を分析することで、双方の緊張下におけるショットの安定性向上に寄与できる可能性が考えられる。
 上記内容の実現方法として、ICTを活用して行う。主に視線の動きや周辺視のパターンを定量的に可視化や、動体視力・認知処理スピードの客観的評価、反応速度や空間認知評価にICTを活用し、視野特性を測定する。
 以上のように、性質が異なる競技における視野特性の違いを明らかにし、視覚に関するトレーニングが双方の競技力向上に貢献する可能性を実証する。

【具体的な内容】
バドミントン選手とゴルフ選手に対して同一のICTベースの視覚評価ツールを用いて、周辺視野能力および視覚的特性を比較・分析する。さらに、視覚トレーニング介入前後のパフォーマンス変化を追跡し、競技特性と視野活用の関連性を明らかにすることを目的とする。
「ICTベースの視覚評価ツール」として,Tobii eye tracker,NeuroTrackerX,Supreme Vishon Lを用いる。それぞれ,視野追跡と注視点の特定,周辺視野・注意分配の多対象追跡評価,視野全体への刺激提示・反応速度・精度評価を行う。これらの機器によって取得された視覚特性のデータは、個別最適化されたトレーニングメニューの設計を可能とし、両競技における視野強化の共通基盤として応用できる可能性がある。本助成活動は、こうしたICT活用の具体的可能性についても示すことを目指す。

【現状分析】
◇導入する背景(課題等):
近年、スポーツパフォーマンスの向上を目指して、視覚機能に着目した研究が数多く行われている。特に動作予測や空間認知を必要とする競技においては、中心視野だけでなく周辺視野の活用が重要視されている。周辺視野とは、眼球を固定したままで視認できる視野の範囲を指し、動態の検知や空間の広がりの把握に寄与することが知られている。バドミントンのような高速で不規則なシャトルの軌道を追う競技では、選手がスマッシュに反応する際、中心視野だけでなく周辺視野を駆使して球の方向や相手の動きを読み取っていることが先行研究から示唆されている。一方で、ゴルフのように静止したボールを打つ競技において、視線制御や周辺環境の把握がどのようにプレーパフォーマンスに影響しているかについては、十分に解明されていない。
上記に対して、ICT機器を用いて解明することで、相互のパフォーマンス向上を目指したクロス・トレーニングを構築できることが期待される。

【実証方法・効果】
◇実証方法:
本助成活動において、止まったボールを打つゴルフと、動いているシャトルを打つバドミントンという運動特性の異なる2競技を対象とし、同一の視覚評価プロトコルとICTツール(Tobii, NeuroTracker, Supreme Vision L)を用いて定量的に周辺視野の特性を比較する。
さらに、得られた結果に基づき、両競技で活用可能なトレーニングメニューの開発と評価を目指す。
◇期待される効果:
バドミントンにおいては周辺視を用いる場面が多いが、ゴルフにおいてもティーショット時やパッティング時に周辺視を活用することが考えられる。そのため、周辺視の活用がそれぞれの種目におけるパフォーマンスの向上に繋がることが期待できる。
双方でパフォーマンスに寄与しているものが周辺視である(周辺視が優位である)場合、ゴルフ場での広大な場所でのビジョントレーニングはバドミントンに対する効果も期待でき、バドミントンのような動的な周辺視トレーニングがゴルフでも効果があることが期待できる。
また,ゴルフにおいて周辺視より中心視が優位であった場合、ゴルフにおける中心視トレーニングがバドミントンで中心視を用いる場面(主にショットの瞬間)での精度向上につながることが期待できる。
その他、緊張下でのショットの安定性向上のためにルーティンワーク時の視野を計測、改善も期待できる。

◇翌年度以降の見通し:
 両種目において活用可能なトレーニングメニューの開発および評価を継続して行う。また,バドミントンとゴルフだけではなく,別の種目へも適用を試みる。

【最先端・新規性】
◇国内での導入状況:
 本助成活動では最先端のICT機器を複数用いることによって,結果の精度を高められることが期待される。それぞれ単体での導入の事例はあり,それによる研究の成果も発表されているが,1つのテーマ(本助成活動では周辺視)に対して,異なる目的のために用いられるICT機器を複数導入する例はないと考えられる。

【アイデア】
◇従来の手法や環境との違い:
本助成活動で用いるICT機器群を単体で使用する研究例はすでにあるが,異なる観点(視線移動,資格認知,反応速度)による計測から複合的にパフォーマンスを評価する事例はまだない。また,止まったボールを打つゴルフと動いているシャトルを打つバドミントンという性質の異なる競技を対象として,1つのテーマで評価するという点が従来の手法との相違点であり,本助成活動の特徴といえる。

【汎用性】
 ◇他のチームや競技における利用・応用の可能性
性質が異なる競技間の共通点を分析するため,ゴルフのような競技,バドミントンのような競技への応用は十分可能である。また,周辺視の効果を示すことで,スポーツ全般への応用も期待できる。